純陽子書画展によせて

純陽子、八仙の呂洞賓(りょとうひん)に通ずる名を持つ女史は私の下で20年、伝統的書法と絵画芸術の修業を続けている。十年磨一劍、今回その心手を嘗試すべく女史の根である故郷に帰り個展を開く事になった。
 これは私にとって大変喜ばしい事である。
 古人の高尚な精神を取り正しい伝統の原理を求めるには、伝統的な方法が必要である。女史は修練の末、古法『屋漏痕』(おくろうこん)を修得した。その書は骨力に遒潤が加わり骨気に満ちたものになりつつ有る。書法の根源に〝気・骨・力 が有る。特に隷書と楷書に秀い出ている。隷楷は精にして密が欲求される。この二つは点画をもって形質と為し、筆の使転により情性を産み出す。
 草書はその相対に有る。点画により情性を伝え筆の使転により形質を作り上げて行く。当然女史の草書も良い。情が動き形がものを言うのは絵も同じである。書法を意識して絵を描く時、人は絵を書く、絵を写(しゃ)すと言う。書の美観用筆はそのまま絵に適用される。まさに書画同源である。
 景に託して情を伝え、景と情の融合の上に絵画は成り立つ。景と情の軽重は主題と画法による。写意画と工筆画は文字通り対称的である。女史はこの二つをともに修得している。そしてその絵画芸術の上に日本的題材を加え、西欧的絵画技術を取り入れ新たな中国画の創造を目標として前進している。
 中日両国には漢字を通じた千年以上の文化交流が存在する。この個展が長い交流の歴史に一層の深厚を加え、日本における筆墨趣味の世界を一段と拡大する事を願うもので有ります。

    平成23年2月吉日

日中書画篆刻協会会長
中国華東師範大学教授
大阪芸術大学講師

承前啓後【前を承(う)けて後へ啓(ひら)く】
中国古来の正統的用筆法を後世に伝え啓くようにと、周之江先生よりお言葉をいただきました。辛卯(西暦2011年)